目次
- はじめに
- カスタムAIエージェントが抱える3つの罠
- 1. 過剰な複雑性の罠
- 2. メンテナンスの罠
- 3. スケールの罠
- Claude Codeが提供する新しいアプローチ
- すべてが統合されたエージェント環境
- 実際の使用例:テスト作成とデプロイ
- Claude Skills:再利用可能なワークフローの標準化
- Skillsの仕組み
- 実例:GitHub Issue修正ワークフロー
- Steps
- Quality checks
- 動的コンテキスト注入
- Pull request context
- Your task
- Skillsとサブエージェントの連携
- カスタムエージェントが適している場面
- 1. 高度に特化したドメイン知識が必要な場合
- 2. 既存システムとの深い統合が必要な場合
- 3. 極めて高いセキュリティ要件がある場合
- Claude Code導入のベストプラクティス
- 1. CLAUDE.mdで標準を定義する
- Architecture
- Preferred Libraries
- Review Checklist
- 2. Hooksで自動化を追加する
- 3. チーム全体でSkillsを共有する
- 4. MCPで外部ツールと連携する
- まとめ:負債を抱えず、価値を最大化する
- 参考文献
はじめに
「AIエージェントを自社で構築しよう」──2024年から2025年にかけて、多くの企業がこの決断を下しました。しかし2026年2月現在、その多くが思わぬ技術的負債に直面しています。一方で、Claude Codeという新しいアプローチが、カスタムエージェント開発の常識を覆しつつあります。
本記事では、なぜカスタムAIエージェントが負債化するのか、そしてClaude CodeとSkillsがどのように業務課題を解決するのかを、最新の情報と具体例を交えて解説します。
カスタムAIエージェントが抱える3つの罠
1. 過剰な複雑性の罠
多くの企業が陥るのが、「すべてを自前で作ろう」という思考です。Tool Use(Function Calling)の実装、エラーハンドリング、ストリーミング対応、バッチ処理──Anthropic SDKが提供する機能は強力ですが、適切に設計・運用するには高度な専門知識が必要です。
以下は典型的なカスタムエージェントの実装例です:
```typescript import Anthropic from '@anthropic-ai/sdk'; import { betaZodTool } from '@anthropic-ai/sdk/helpers/beta/zod'; import { z } from 'zod';
const anthropic = new Anthropic();
// ツール定義 const weatherTool = betaZodTool({ name: 'get_weather', inputSchema: z.object({ location: z.string(), }), description: 'Get the current weather', run: (input) => { return `Weather in ${input.location} is foggy`; }, });
// エージェント実行 const finalMessage = await anthropic.beta.messages.toolRunner({ model: 'claude-3-5-sonnet-20241022', max_tokens: 1000, messages: [{ role: 'user', content: 'Weather in Tokyo?' }], tools: [weatherTool], }); ```
一見シンプルですが、これを本番運用レベルに引き上げるには、以下が必要になります:
- エラーハンドリング(ToolError、ネットワークエラー、タイムアウト)
- ロギングとモニタリング
- レート制限への対応
- トークン使用量の最適化
- マルチターン会話の状態管理
- セキュリティ対策(プロンプトインジェクション、サンドボックス化)
これらすべてを自社で実装・保守するコストは、当初の見積もりを大きく上回ります。
2. メンテナンスの罠
AIエージェントの技術進化は驚異的なスピードです。2026年2月5日にリリースされたClaude Opus 4.6は、コーディング、Computer Use、Tool Use、検索、金融分野で業界をリードする性能を達成しました。しかし、カスタムエージェントを最新モデルに対応させるには、プロンプト調整、API移行、パフォーマンステストが必要です。
さらに、以下のような継続的なメンテナンスが発生します:
- 新しいツール・API連携の追加
- ユーザーフィードバックに基づく改善
- セキュリティパッチの適用
- ドキュメントの更新
- チームメンバーへのトレーニング
あるFinTech企業の事例では、初期開発に3ヶ月、その後の年間メンテナンスコストが開発コストの2倍に達したケースもあります。
3. スケールの罠
単一タスク向けに設計されたエージェントは、業務が拡大するにつれて限界を迎えます。新しいユースケースごとに新しいエージェントを作ると、システム全体が複雑化し、管理コストが爆発的に増大します。
以下の図は、カスタムエージェントの数と運用コストの関係を示しています:
エージェントが増えるほど、以下の問題が深刻化します:
- エージェント間の依存関係管理
- 共通ロジックの重複
- バージョン管理の複雑化
- デプロイとロールバックの困難化
Claude Codeが提供する新しいアプローチ
すべてが統合されたエージェント環境
Claude Codeは、カスタムエージェント開発の複雑さを根本から解決します。ターミナル、IDE(VS Code、JetBrains)、デスクトップアプリ、Webブラウザ──どの環境でも同じエージェントエンジンが動作し、統一された体験を提供します。
以下は、Claude Codeが提供する主要機能です:
| 機能カテゴリ | 提供機能 | 従来の課題 |
|---|---|---|
| コードベース理解 | プロジェクト全体の構造を自動把握 | 手動でのコンテキスト構築が必要 |
| ファイル編集 | 複数ファイルの同時編集、差分表示 | ツール実装とエラーハンドリング |
| Git統合 | コミット、ブランチ、PR作成を自然言語で | Git CLIのラッピング実装 |
| MCP対応 | 外部ツール・データソースへの標準接続 | 個別のAPI統合開発 |
| 拡張性 | Skills、Hooks、CLAUDE.md | カスタムプラグインシステムの開発 |
これらすべてが追加実装なしで利用可能です。
実際の使用例:テスト作成とデプロイ
例えば、未テストのコードにテストを追加し、テストを実行し、失敗を修正する──という一連のタスクを見てみましょう。
従来のカスタムエージェント:
- テストファイルを生成するツールを実装
- テスト実行のツールを実装
- エラーパースとリトライロジックを実装
- これらを統合するオーケストレーションコードを記述
Claude Code: ```bash claude "write tests for the auth module, run them, and fix any failures" ```
たった1行のコマンドで、Claude Codeは以下を実行します:
- authモジュールのコードを読み、理解する
- 適切なテストケースを生成する
- テストを実行する
- 失敗したテストを分析する
- コードを修正する
- 再度テストを実行し、成功を確認する
以下のシーケンス図は、Claude Codeの処理フローを示しています:
このアプローチの利点は明確です:
- 開発時間ゼロ: ツール実装が不要
- メンテナンスコストゼロ: Claude Codeの更新で自動的に改善
- 学習コスト最小: 自然言語コマンドのみ
Claude Skills:再利用可能なワークフローの標準化
Skillsの仕組み
Claude Skillsは、繰り返し実行するワークフローを再利用可能な形で標準化する仕組みです。`SKILL.md`ファイルに指示を記述するだけで、Claude Codeがスキルとして認識し、適切なタイミングで自動実行します。
Skillsの配置場所によって、スコープが決まります:
| 配置場所 | パス | 適用範囲 |
|---|---|---|
| エンタープライズ | 管理設定 | 組織全体 |
| パーソナル | `~/.claude/skills/ | 全プロジェクト |
| プロジェクト | `.claude/skills/ | 当該プロジェクトのみ |
| プラグイン | ` | プラグイン有効時 |
実例:GitHub Issue修正ワークフロー
以下は、GitHub Issueを自動修正するSkillの例です:
```yaml --- name: fix-issue description: Fix a GitHub issue following coding standards disable-model-invocation: true allowed-tools: Read, Grep, Edit, Bash(git *, gh *) ---
Fix GitHub issue $ARGUMENTS following our coding standards.
Steps
- Fetch the issue : Use `gh issue view $ARGUMENTS` to read the issue
- Understand context : Read related files mentioned in the issue
- Implement the fix : Apply changes following CLAUDE.md guidelines
- Write tests : Add tests covering the fix
- Run tests : Ensure all tests pass
- Commit : Create a commit with message format: "Fix #$ARGUMENTS: [brief description]"
- Verify : Run `git log -1` to confirm the commit
Quality checks
- Code follows project style guide
- No new lint warnings
- Tests cover edge cases
- Commit message is descriptive
```
このSkillを使うには: ```bash /fix-issue 123 ```
Claude Codeは自動的に:
- Issue #123の内容を取得
- 関連ファイルを特定
- 修正を実装
- テストを追加
- テストを実行
- コミットを作成
従来のカスタムエージェントでは、これらすべてのステップをコードで実装し、エラーハンドリングを追加し、ドキュメントを書き、チームにトレーニングする必要がありました。Skillsでは、自然言語の指示を書くだけです。
動的コンテキスト注入
Skillsは、実行時にシェルコマンドを実行し、その結果をプロンプトに埋め込む動的コンテキスト注入をサポートしています。
以下は、Pull Request要約スキルの例です:
```yaml --- name: pr-summary description: Summarize changes in a pull request context: fork agent: Explore allowed-tools: Bash(gh *) ---
Pull request context
- PR diff: !`gh pr diff`
- PR comments: !`gh pr view --comments`
- Changed files: !`gh pr diff --name-only`
Your task
Summarize this pull request in Japanese:
- 変更概要 : 何を変更したか(3-5行)
- 影響範囲 : どのモジュール・機能に影響するか
- レビューポイント : レビュアーが注目すべき点
- テスト状況 : テストの追加・変更内容
Use clear, concise Japanese suitable for technical documentation. ```
`!\`gh pr diff\``という記法により、スキル実行時に実際のPR差分が取得され、プロンプトに埋め込まれます。これはプリプロセスであり、Claude Codeがコマンドを実行するのではなく、実行結果がプロンプトの一部として渡されます。
従来のカスタムエージェントでは、以下が必要でした:
- GitHub API連携の実装
- 差分パースロジック
- コメント取得と整形
- エラーハンドリング
Skillsでは、`gh` CLIと`!\`...\``記法だけで実現できます。
Skillsとサブエージェントの連携
`context: fork`フロントマターを指定すると、スキルは独立したサブエージェントとして実行されます。これにより、メインの会話履歴を汚染せず、大規模なタスクを並列実行できます。
```yaml --- name: deep-research description: Research a topic thoroughly context: fork agent: Explore ---
Research $ARGUMENTS thoroughly:
- Find relevant files using Glob and Grep
- Read and analyze the code
- Summarize findings with specific file references
```
以下の図は、Skillsとサブエージェントのアーキテクチャを示しています:
この仕組みにより、以下が可能になります:
- 並列実行: 複数のSkillsを同時に実行
- 専門化: Explore、Plan、general-purposeなど、タスクに最適なエージェントタイプを選択
- コンテキスト分離: メインエージェントのトークン使用量を節約
カスタムエージェントが適している場面
すべてのケースでClaude Codeが最適というわけではありません。以下のような場合は、カスタムエージェントの構築が依然として有効です:
1. 高度に特化したドメイン知識が必要な場合
医療診断支援、法的文書分析、金融モデリングなど、専門的な推論ロジックや独自の知識ベースが不可欠な場合は、カスタムエージェントが適しています。
2. 既存システムとの深い統合が必要な場合
エンタープライズ環境で、レガシーシステムや独自プロトコルとの連携が必要な場合、カスタムエージェントによる細かい制御が有効です。
3. 極めて高いセキュリティ要件がある場合
金融機関や政府機関など、データ主権やオンプレミス運用が必須の場合は、カスタムエージェントとセルフホストが選択肢になります。
ただし、これらのケースでも、Agent SDKを使えば、Claude Codeのツールと機能を活用しながら、カスタムオーケストレーションを実装できます。完全にゼロから作るよりも、大幅に開発コストを削減できます。
Claude Code導入のベストプラクティス
1. CLAUDE.mdで標準を定義する
プロジェクトルートに`CLAUDE.md`ファイルを配置すると、Claude Codeが毎回セッション開始時に読み込みます。ここにコーディング規約、アーキテクチャ方針、推奨ライブラリ、レビューチェックリストを記述しましょう。
```markdown # Coding Standards
Architecture
- Use microservices pattern
- Event-driven communication via Kafka
Preferred Libraries
- State management: Zustand
- API client: tRPC
- Testing: Vitest
Review Checklist
- [ ] All tests pass
- [ ] No new TypeScript errors
- [ ] Code follows ESLint rules
- [ ] Documentation updated
```
2. Hooksで自動化を追加する
Hooksを使えば、ツール実行の前後に自動でシェルコマンドを実行できます。例えば、ファイル編集後に自動フォーマット、コミット前にリント実行などが可能です。
```yaml # .claude/settings.yml hooks: post-edit: "npx prettier --write {file}" pre-commit: "npm run lint" ```
3. チーム全体でSkillsを共有する
プロジェクトの`.claude/skills/`ディレクトリをバージョン管理に含めることで、チーム全体で同じワークフローを共有できます。新しいメンバーも、既存のSkillsをすぐに利用できます。
4. MCPで外部ツールと連携する
Model Context Protocol(MCP)は、AIツールと外部データソースを接続するオープン標準です。Google Drive、Jira、Slackなど、既存のツールと簡単に連携できます。
```typescript import { Client } from '@modelcontextprotocol/sdk/client/index.js'; import { StdioClientTransport } from '@modelcontextprotocol/sdk/client/stdio.js';
const transport = new StdioClientTransport({ command: 'mcp-server', args: [] }); const mcpClient = new Client({ name: 'my-client', version: '1.0.0' }); await mcpClient.connect(transport); ```
MCPを使えば、カスタムツール開発の大部分を標準プロトコルに置き換えられます。
まとめ:負債を抱えず、価値を最大化する
2026年2月現在、AIエージェント技術は構築フェーズから活用フェーズへ移行しています。カスタムエージェント開発に数ヶ月を費やすのではなく、Claude CodeとSkillsを使って数時間で業務課題を解決する──これが新しい標準になりつつあります。
カスタムエージェントが技術的負債になる理由は明確です:
- 過剰な複雑性
- 継続的なメンテナンスコスト
- スケールの限界
一方、Claude CodeとSkillsは:
- 統合されたエージェント環境で複雑性を排除
- 自動アップデートでメンテナンスコストを削減
- 再利用可能なSkillsでスケーラビリティを実現
もちろん、高度に特化したドメインや厳格なセキュリティ要件がある場合は、カスタムエージェントが依然として有効です。しかし、その場合でもAgent SDKを活用することで、開発コストを大幅に削減できます。
2026年、AIエージェントの価値は「いかに高度なシステムを構築したか」ではなく、「いかに早く業務課題を解決したか」で測られます。Claude CodeとSkillsは、その実現を強力に後押しします。